以下は松井秀喜選手の2010年シーズンまでのプロ野球とMLBでの成績である。
年度 |
所属 |
試合数 |
打数 |
安打 |
本塁打 |
打点 |
打率 |
盗塁 |
通算 |
日本 |
1268 |
4572 |
1390 |
332 |
889 |
0.304 |
46 |
通算 |
MLB |
1061 |
3830 |
1109 |
161 |
681 |
0.29 |
12 |
松井秀喜選手の全成績(2010シーズンまで)(スポーツナビより) |
以上よりそれぞれ以下の比較数値が得られる。
HR/打数 | 日本 | 0.073 | 全打数中のHRの比率 7.26% |
| MLB | 0.042 | 全打数中のHRの比率 4.20% |
|
打数/1HR | 日本 | 13.771 | HRを1本打つのに要する打数は13.8打数 |
| MLB | 23.789 | HRを1本打つのに要する打数は23.8打数 |
|
試合/1HR | 日本 | 3.819 | HRを1本打つのに要する試合数は3.82試合 |
| | | 144試合であれば144/3.82=37.7本、 162試合であれば162/3.82=42.4本 |
| MLB | 6.590 | HRを1本打つのに要する試合数は6.59試合 |
| | | 144試合であれば144/6.59=21.8本、 162試合であれば162/6.59=24.6本 |
|
打数/1打点 | 日本 | 1.426 | 打点を1記録するのに要する打数は1.43打数 |
| MLB | 1.558 | 打点を1記録するのに要する打数は1.56打数 |
|
打数/1試合 | 日本 | 3.606 | |
| MLB | 3.610 | |
|
打数/1安打 |
日本 |
3.289 |
安打を1本打つのに要する打数は3.29打数 |
|
MLB |
3.454 |
安打を1本打つのに要する打数は3.45打数 |
|
試合/1安打 |
日本 |
0.912 |
安打を1本打つのに要する試合数は0.91試合 |
|
MLB |
0.957 |
安打を1本打つのに要する試合数は0.96試合 |
|
日本人打者は本塁打以外はMLBで対応できる。
以上、松井秀喜選手の場合、年齢を考慮しない比較で(最高成績を記録した翌年からMLBに移籍した事もあるので)、HR以外は日本の9割程度の成績をMLBでも残しているが、HRのパフォーマンスは6割程度(21.8/37.7=57.82%)に落ちている。 松井選手であるから4割減でとどまっているが非力な選手ではその落ち方は急激であると考えられる。
さらに言えば、松井選手のケースをそのまま外国人助っ人打者に当てはめれば、MLBで24.4本(162試合)を打てる選手はプロ野球では37.7本(144試合)打てる計算になる。
実際には松井選手の場合はプロ野球とMLBの投球の差(スピードだけで平均10Km/hの差がある)を克服するために苦労したのであるが、反対にレベルの低い投手層(日本投手のレベルは中継ぎではMLBとの差はほとんど無いが、先発の1,2、3番手ではかなりの差がある。 MLBレベルの先発投手はパリーグに数人いる程度である)の中で打てる外人助っ人打者は倍程度の本塁打数を記録する可能性も大いに考えられる。
過去にもカブレラ、ローズ、バースなど最後まで勝負をしてもらえさえすれば60本を超えていたと思われる選手が数人存在した。
MLBに上がって活躍する実力は無いが、平均時速で10Km/h以下の投球を打てて選球眼がそこそこあり、当たれば長打が出る外人選手であれば日本で50〜60本の本塁打を打つことは難しくないと言える。
比較として面白いのが中村紀洋選手である。
プロ野球では本塁打王も獲得したのだがMLBではついにレギュラーポジションを得るどころかマイナーぐらしが続いた。
中村選手のようにプロ野球とMLBでの差に順応するのが難しい中間レベルの打者はマイナーリーグにはたくさん存在するという事であろう。
ちなみに中村選手のドジャース移籍前の3年間(2002年、2003年、2004年)の本塁打は42,23,19本(平均28本)で日本復帰後の3年間(2006年、2007年、2008年)は12,20,24(平均18.7本)である。 そしてMLBでは0本となっている。
最近の山崎武選手の例に証明されているように、打率280程度で本塁打30本の打者をマイナーリーグやMLBから取ってくるくらいであれば、日本選手に長く働いてもらう方が良いはずだ。 2011年の楽天ゴールデンイーグルスの岩村と松井コンビが活躍するような事があればその流れは加速するであろう。 外国人選手ではチームメイトの選手もファンもチームリーダーとは認めないであろうから。
日本人打者が本塁打をMLBで打てない訳
そして日本人選手にMLBでの本塁打を望むのは難しいであろう。 これは都市伝説で言うところの体力差などでは全くなく、単に打撃理論の差を真摯に受け止めないことから来るものである。
(もともと打撃理論が異なるという事ではないが、昨今のプロ野球はMLBのような強い打球を打つ打撃理論よりもどんな型であれ安打(記録上の)を打つ早い理論を採用しているということかもしれない)
さらに加えれば、一つには当てることを主題にしたスイングスピードでも打てるのが投球の平均10Kmの差という事になるのであろうし、二つ目はファンとメディアが数字合わせで満足してしまう思考であるために記録が安打であればどのような打球でも称賛するのであるからプロらしい強い打球(当てただけの打球は記録と結果がどうあれプロらしい打球とは考えていない)を打つ必要性を求められていないためである。
プロらしく(米国的なマッチョなプロという意味だが)それを常に意識しそれを追求した長嶋茂雄選手があれほどまでの国民的ヒーローになったのは日本人が強さに憧れていた時代であったからかもしれない、現在の選手は年俸の多寡であこがれの対象となるわけで、査定のためには記録(結果としての数字)が全てという事であろう。
日本ではメジャーリーガーを記録だけでとらえているようだが、それ以前にMLBではアスリートとしての非凡さを見せる事ができなければ尊敬は得られないようだ。 例えば内野安打は「守備側が誰もエラーをしていないのであるから記録上は安打にする」というものであって「たまたま当たりそこねがセーフになったもの」という事である。 イチローのように「内野安打になるようなコースへ走りながら当てる事はベースボールの打撃技術として認識されていなかったのである。 なぜならばそれはMLBの打者がファンから金をもらって見せるものではないしファンも喜ばないというものであったからだ。
イチローの打撃についてはそのような意見は今も根強くあると思われる、しかしながらこれほどの安打を積み上げてきた選手にそれをいう事はMLBとしてのプライドがあれば口にできないという事であろうし、もちろんそれを高く評価する考えも当然ある。 彼の打撃は野球であってベースボールではないと考えている人がMLB関係者に数多くいることは想像に難くない。
しかし守備は間違いなくトップクラスのベースボールである。
そして蛇足ながら彼の走塁は野球である。 これまで故障なく活躍しているのは完璧な体の整備であることに疑いは無いが、怪我を避け無理をしないスライディングもその要素であると指摘している記事もある。
1番バッターで四球を嫌い全て打ちにいき(自己の安打数の為と思われる場合がある)、ギャンブルの盗塁はせず、スライディングも弱々しい(記録継続のために怪我を恐れると思われる場合がある)もので、そのくせチームメイトが勝ちにこだわるチームプレイをしないと非難すれば、『こいつをみんなで焼きいれてやれ』という2010年シーズンに記事にもなってしまったチーム内トラブルもやっかみが主であるにしろ、全く起こり得ない事ではなかったのかもしれない。
日本人は体力が外人より劣るという無思考
都市伝説の体力差という事でもう一つ付け加えれば、日本人は肩が弱いという都市伝説しかりでショートの深いポジションからの送球を可能にするための筋力トレーニングをプロであってもはなからしないのであるから全くは話にならない。
もし日本人の体力が劣るならイチローの体型でのレーザービームは何なのか説明してほしいものだ。
(古い話で恐縮だが、東京オリンピックの重量挙げで三宅選手が金メダルを取ったのはなぜなのか、こちらも教えてほしいものである)
ほんの10数年程度前までは「投手は肩が冷えるから水泳はしてはいけない」などという事をプロ野球関係者まで信じていたのであるから誰が言い始めたかも知れないたわごとを盲目的に信じる日本人のDNAは恐ろしい。
投手においても、いまだに投手板の前を犬のように穴を掘って投げている。少年野球も学生野球もプロ野球も全ての指導者が何の理論的な考察もなく信じているのであろうが、足を柔らかい土でできた穴から穴に踏み入れて投げるのは球速を落とす以上に投手の故障の原因になっているはずだ。 MLBに硬い穴を掘らないマウンドから投げることに適応した長谷川滋投手や齋藤隆投手の球速が増したことから推測して、日米の球速の10Km差は主にこれに起因するのではと考えている。
これを言うとほとんどの関係者は「あの投げ方は上半身の体力のある外人だからこそできるのであって、日本人投手にさせると怪我をする」という答えになる。 これも何らかの検証を基にしゃべっているとは思えない。 才能ある投手は早くMLBに行くべきである。 投手力の強化こそが打者のレベルアップをもたらすのである。
西岡選手に期待できる理由
ここで打率に話を戻すと、日本人打者がMLBに行った場合、打率低下は1〜2割で済む可能性があり、高い打率をプロ野球で記録した足の速い野手はそれなりの成績を残せると考える。
ただし肩の弱さと本塁打の少なさ(繰り返しになるがこれは単にトレーニングの問題でしかないのであるが)を勘案すればポジションとしては2塁手だけという評価になるかもしれない。
西岡選手が適応できればMLBの全30チームの半分くらいのチームの2塁手を日本人にしても不思議ではない。
これまで岩村、松井、井口と3人いたがそれほど成功しなかったのは、この3人が日本では長打力があると評価されていたため、本人たちに短打に徹する割り切りができなかったためと考えられる。
なお、短打に徹していること(日本でも1番打者であった)と若くしてMLBに行ったことなど、西岡選手はイチロー選手に比較的似ており、西岡選手が活躍できる可能性はありそうだ。 ただ1点の不安材料はイチローは日本ですでに速い球に対処する技術を持っていたと思われるが、西岡選手にはそれほどの対応力は現時点でないと思われる点である。
ストライクゾーンの球を初球から芯に当てて、後はいちもくさんに1塁に走る事ができればMLBでもそれなりに活躍できよう。
もし2番バッターを任される事になればより活躍できるチャンスは広がる。 2番バッターの場合、1番の出塁後であれば続くマウアーとモアノーの2人の強打者にお膳立てをするバントを含む進塁打が大きな仕事になり、その場合は相手投手は日本と違いバントをさせる投球をするし、初球から積極的に打つ回数は減るため日本の野球で育った西岡選手にはかなりリラックスできる打順と言える。
守備についてはバックハンドキャッチさえ覚えれば2塁からの送球はトレーニング次第で一流になるであろうし、走塁について言えばプロ野球はすでにMLBを超えているのだから、まちがって安全確率を重視したりしなければ全く問題は無い。
MLBのファンとメディアは同じ30盗塁でもその価値は正しく評価してくれるであろう。
速い投球への対応以上に懸念されるのは日米メディアの「イチロー選手との比較」である。
成功率90%の30盗塁と成功率50%の30盗塁を比較すれば日本のメディアは成功率90%をより評価するであろう。
しかしチームメイトとファンは後者をより評価するであろう。 なぜならばリスクを取り続けて達成した証であるから。
ミネソタツインズの2番・2塁手で西岡選手の開幕戦からの活躍を見たいものである。
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