1990年の1月にいわゆる過剰流動性のバブルがはじけた後、約20年もの間低金利が続いてきた。
当時金融業界に入った新入社員もすでに40歳になり中心社員として働いている人のほとんどがそれ以前の市場を知らない。
それまでの20年間は10年国債で言えば低金利と高金利の境目は6%であった。
今10年物国債の値動きが頭の中に整理されているエコノミスト・金融機関の金利取扱者以外の人がどれだけいるであろうか、笑い話にもならないが最近自行の短期プライムレートのレベルを全く知らない銀行の融資担当者がいた。
今、誰も彼もが日本の株式トレーダーになったようだが、その直接の要因は、
(1)にバブル期のNTT株売り出しによる未経験者の濡れ手に粟の原体験、
(2)にそのバブルが消えた後に株式市場を支えるために政府ぐるみで行った株価買い上げ操作の主要プレーヤーとしての個人投機家の乱造であった。
その結果現在の新聞・テレビ・ウェブサイトに飛び交う「市場」という言葉はイコール日本株取引市場を指すようになってしまった。
ご丁寧に本日の平均株価はXX円○○銭の変化と声を張り上げてしゃべるメディアにはその細かな数字が視聴者にはどれほどの意味もないことさえ理解できない。
また、メディアが為替市場というときに米ドル:日本円レートしか言わないのは、世界における他通貨の貿易決済と準備通貨に占める割合を認識できないのか、日本が米国の属国であるからかのいずれかが理由であるとしか理解できない。
現在は円高であるらしいがここ10年のチャートを見る限りにおいては対米ドルではボックス圏内のドル安局面であり且つ対ユーロで見ると一方的な円安トレンドが継続中としか見えない。
そしてこれほど生活を直撃しており、その深刻度合いを増しているエネルギー・食料・材料などの商品市場にほとんど資金を投入しない金融機関と個人投機家は何を待っているのであろう。
もしすでにそれらが歴史的高値にあり早晩値下がりすると考えているならあまりに過去を勉強しなさ過ぎるといえよう。
すなはち最後に高値つかみをする人間が来るまで上昇し続けるのである。
少し前のLTCMというヘッジファンドや最近のサブプライムローン証券化商品をつかんでもがいている米国という人間が現れる前はそのほとんどが日本人であった。
はたして現在の状況はスタグフレーションの始まりか否か?と尋ねるとほとんどの解答は「景気は良くないが大企業を中心に早晩回復、物価は安定。
インフレのおそれは単なる恐れ。
長期金利は上げると皆が困るから上がらない。
株価は下値が固まりつつあり大きな下げよりも上昇の可能性が高い。」というところであろう。
しかしこれから起こりえることは『景気は非富裕層段階で悪化傾向が加速。
インフレはエネルギーと食料からすでに現実のものとなっている。
大企業を含めた富裕層も輸出からのみ収益を上げることは出来ないために富裕層に貢献すべき非富裕層が疲弊すると当然収益は悪化。 長期金利の歯止めも最終的にははじける力を抑えきれなくなる。
株価も物価の一部とすれば後で見ればインフレによる上昇かもしれない。』という可能性が残念ながら高まってきている。
ただし歯止めが外れるためにはこれまでの日本を取り巻く状況が大きく変わる事がその用件となるが、それは次のことになろう。
- (ア)日米関係の変化
- ⇒ 米国のアジアにおけるパートナーが日本から中国に大きく変わる舵取りが行われたと考えられる。
GDPで日本を抜くことが確実視され、軍事力でも凌駕している国を重視するのは当然の帰結である。
- (イ)日本の変化
- ⇒ 人口の減少と高齢化そして大企業の外国資本の傘下入りそして強まる管理社会傾向。
もちろんこれらに対する的確な対応がとられればこの要因は補正されうる。
- (ウ)アジアでのリーダーシップ
- ⇒ 東南アジアにおける政治・経済連携が(ア)の対抗要因になりえるが、現在までのところ”金”以外の
リーダーシップしか取れない日本が何を提唱しても”大東亜共栄圏”の焼き直しにしかならない可能性が強い。
- (エ)米国の変化
- ⇒ 11月の大統領選挙の結果はふたを開けてみるまでわからないが、少なくとも民主党の大統領指名候補者の最後の2人にクリントンとオバマが残ったことのもっとも明快な意図は、米国国民の少なくとも半数近くはあらゆる対立の解決策として軍事力を最上位に考えないということである。
もしオバマが大統領になればこのことを世界は2年以内に明確なアナウンスと理解するはずだ。 そうなれば米国の世界に占める比重は低くなり振り戻しが来るまでの間は、日本の比重もそれ以上のスピードで低下する。
- (オ)税率の上昇
- ⇒ 消費税が5%〜10%上昇する場合に給与所得がそれに見合った程度上昇しなければより深刻な不況に見舞われることになるが、単に生活が困るだけでインフレか国民の怒りが爆発するかのいずれも起こらないと考えることはきわめて難しい。
どちらかというと順番は国民を納得させるだけの若干のインフレ誘導の後に増税ということになろうが、それが上手くコントロールできると考えるには指導者の経験不足と初動遅れの国民性とエネルギーと食品の自給率の低さなどの要因が楽観論を許さないかもしれない。
- (カ)突然の内需の拡大
- ⇒ 予期せぬ、あるいは予期したくない突然の変化により内需が急激に刺激された場合には物資の急激な上昇をもたらすことは用意に推測できる。
ここ2年以内に長期金利が上昇トレンドに入る可能性は過去20年間でもっとも高いと考えておくべきではないだろうか。
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