イラク特措法(イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法)の延長問題は米国ブッシュ政権にとっては次の点で現時点での対日関係における重要課題である可能性が高い。 最終的には参議院で否決されても衆議院で成立することになるであろうが、参議院での審議の中で米国のイラク戦争の是非が言及された上で否決されるとなれば。
- イラクより撤収する西側諸国が増える中で、(最も米国の意に沿う)日本までもが参議院とはいえ撤退を決議したとなれば、米国内のイラク撤退論がより高まり、ブッシュのレームダック化が加速することになる。
- 米国ネオコンからみて日米安全保障条約の見直し論をふくめ、憲法9条を改正し条件的核武装(比較3原則の一部変更)をさせ、対中国・ロシア牽制の拠点にする戦略の後退を意味する。
日本にとっても、次の点で戦後長く続いた米国の庇護神話が崩壊していく現実に気づかされることを意味する。
- 米国は既にアジアの安全保障のパートナーを中国へシフトしているが、以後は日本に遠慮がちに動く必要が低下する。
- 北朝鮮問題への六カ国協議は消滅し、拉致被害者問題は北朝鮮と日本との2国間問題に放置される。
- 台湾および朝鮮半島の中国化が進み、地政学的に日本は東アジアで孤立化する方向性が認識されるようになる。
- 結果として、日本の軍事力増強は方向付けられるが、米国が考える日米同盟に基づいたものでなくなる可能性がある。
現時点で、米国ブッシュ政権にとっては、この流れを放置することは得策と判断されず、イラク特措法の波風の立たない延長に尽力する(内政干渉も辞さず)ことになると予想できる。 その方法は以下のようなものになろう。
- 民主党の小沢代表を牽制・説得する。(既にシーファー米国中日大使が小沢代表に対して翻意を要請済み)
- 小池防衛相を米国に呼びつけ、知恵を授ける(圧力をかける)。延長成立後の新政権で「初の女性宰相の出現に反対はしない」、「日本のコンドリーサ・ライス」くらいの事は言っても不思議ではない。
- 民主党の対米従属派(前原前代表など「是々非々」を旨とする勢力)を懐柔することにより、小沢に圧力をかける。
- 与党(主に自民党)に対して、安倍政権では成立困難であるとし、小沢と妥協のできる新首相擁立に賛成の立場を各ルートで伝える。
この段階で、安倍退陣で与野党が合意すれば事は無難に収まることになるが、小沢がここで一旦引く判断をする事は考えにくく、妥協するにも政界再編含みになると予想される。特に、 [1]前原前代表らが自民党の一部に取り入り、波乱要因となり、且つ、 [2]安倍首相があくまで政権にしがみ付く場合には、一挙に自民党と民主党の再編に進む可能性が高まることになろう。
もし解散総選挙となれば、争点は年金でも政治改革でも格差問題でもなく、「日米同盟のあり方と国防論」になるであろう。 そうなった場合は反戦主義者、核武装主義者、平和主義者等々が一斉に出現し極めて短絡的な論争が沸き起こることになろう。 これは中国・アジア諸国・米国から見て決して喜ばしいものにならず、沈静化までにはかなりの時間がかかることになる。
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